昼の明るさを消し去り、 太陽が闇に追われて逃げていく。
隣り合っているのに混じることは決してない、 光と、 闇。
そして人間にも、 光と闇はある。
僕は当然、 闇に生きる人間だ。
夜の街に溶けだす自分の影が歪んだ気がして、まるで僕の心のようだ、
そう思いながらクスリとほほ笑んだ。
白と黒、光と闇の境界線
この暗闇を歩くのが好きだ。
誰もいない、 静かで、 おぞましいと人が嫌う闇。
僕の心の中には常に闇が黒く、 暗く、 計り知れない重さをもって轟いている。
憎しみ、 怒り、 それらが絡み合って、
甘さなんて捨て、 優しさなんて置き去りにして。
利用しなければ利用されるだけ、
そんな世界に生きてきた。
今、 僕が身を潜めている街も、 なにも変わりはしない。
闇に巣食う人間たちが、 薄汚く塗れた心を影に潜ませるように、 互いに蹴落としあい、
命を奪いあい、 財を盗み、 己の欲がために人を陥れる。
どこまでいっても、 人は変わらないものだと嘲笑うように、 ふらりと街にでては醜い人間を眺め、
気まぐれに消していくのが僕の遊びだった。
この夜も、 いつもと変わらないはずだった。
鼻をつく鉄錆のにおい、 紅く濡れた壁。
広がる腐臭。
転がる死体の海。
そんな中に、 不変を壊すものは存在した。
人、だろうか。
路地の隅にうずくまるそれを、僕は最初に人だと認識できなかった。
「どうしたのですか?」
そう問いかけて、初めてそれが少女であることが分かった。
綺麗な、少女だった。
身にまとうワンピースに負けないほど白く、太陽を知らないといった肌。
細く、長く伸びた手足。
この世の穢れ全てを知らない無垢な瞳。
恐怖した瞳すら、美しいと思わせるような。
「え・・・・・、・・と」
絞り出すような音が形の良い唇から洩れた。
それを僕が言葉として読み取ることは難解だったが、どうにか返事をしようとしているのだと分かった。
そして、突然現れたにも関わらず、僕という存在がいることに安堵していることも。
「落ち着いて。もう危険な者達はどこかへ行きましたから。」
「は・・、い、 ごめん、なさ、 道に・・・・・・迷って・・」
「気付いたらこんなところにいた、と?」
引きつっていた声も、落ち着きを取り戻して言葉を紡げるようになっている。
「家はわかりますか?」
「え、・・・・・・・・・
わたし、逃げてきたから・・・家を、すてて」
「逃げてきた?」
「そう・・・もう、一人は、いやで・・」
再び震えだす声。
なにがあったのか知りませんが・・・
「困りましたねぇ・・・」
ぽつりと呟くと彼女はびくりと肩を震わせた。
(一人は、いや、ですか・・・)
彼女がどう生きていたのかなんて知らない、知らないが。
「一緒に、来ますか?」
「・・・・・・・・・・・・・え?」
「あなたを、拾って差し上げます」
その言葉にほほ笑んだ彼女がこれまで見たことがないほど美しいものだったから。
傍に置いても悪くないかもしれない、そう思った。
その美しい、白いキャンバスを塗り替えてみたい。なんて、好奇心。
「僕は六道骸と申します。あなたの名前を教えていただけますか?」
にこり。使い慣れた笑い顔。
「、です」
ふわり、彼女が笑った。
嗚呼、
僕のとは比べ物にならない。
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