彼女を印す言葉。



白く、艶やかな肌と、すらりと伸びた肢体。

汚らわしいものの一切を受け付けはしない。



僕の知らない類のもの。



そう、それは寵愛されてきたからこそ持ちえるものだ。

けれど、彼女は愛を知らないという目をする。



さみしい、寂しい、と。





白と黒、光と闇の境界線









ちょうどあの日から5年ほど経ったでしょうか。彼女はずっと僕の手元にいます。


はなかなかに物覚えが良かった、それ自らを無知だと知っているからでしょうか、

それをかき消そうとするようにあらゆるものを吸収し、学んでいきました。

今では、銃を相棒に僕と共に闇を駆け巡るようになってしまった。





は、不思議な人だ。

こんな世界にいながらも、白さを失わない。





むしろ、より美しくなったようにすら感じるほど。

あの頃のような怯えをなくし、しなやかな強さまで身に纏って。

自信や、信念、そういった何かが彼女を輝かせているように思った。





人を輝かせる信念、それはいったい何なのでしょうか。




















彼女の白を汚すことはできなかった。

キャンバスや絵の具の白ならば、それは容易にほかの色に染まる。

けれど、彼女はそんな易しいものではなかった。
たとえるなら、それは漂白剤だ。

毒気を抜かれたように色をなくしていったのは、僕のほう。







自分だけが正しいと信じて生きてきたのに。





彼女の傍にいるだけで、自分が堕落した存在に感じられてしまう。
















『骸さん、見てください。すごいネオンですね、なんだか星みたい』



『ええ。・・・・・・・・・遠くで見ればこんなに美しいものですね』



『うん・・・・・・―――綺麗』



『・・そうですね』





醜い、醜いと思ってきた世界を、美しいと思ってしまうなんて。



















君が、僕の隣にいる今、この瞬間を、仮にも僕が、

”守りたい”と思ってしまうなんて。



いったいだれが予測できたのでしょう?





出会わなければよかった。

そうすれば、こんな苦しみも、想いも持たずに、醜い、愚かだと思い続けてきた世界の

美しい一面も知らずにいられたはずだ。



僕が僕でなくなっていく、そんな不安を持つことだって。





僕が闇であるなら、、君は間違いなく光で。

両者は決して相容れることはなく、境界線に引き裂かれている。

その距離がどんなに近くても、触れることすら許されないのだ。



君がどんなに僕を照らしたとしても、その光は差し込むことはない。

影はただ、深さを増して広がっていくだけなのだ。







そんな思考に悩まされ始めたころだった。





























彼女が姿をけしたのは。









まるで、初めからいなかったように物ひとつなく。

白昼夢のように。

唯一つ、小さな髪飾りが薄い紙をくわえて残っていた。

ずっと前に、僕が贈ったもの。

それだけが、彼女を夢にしなかった。

いっそ夢ならよかったのに。

いつか逃げてしまうのではないかと恐れていた。ならば、早く手にかけてしまえばよかった。

僕を裏切る彼女を見ることがないように。





小さく軋んだ心の音には目を背けて。













光を知ったところで、僕は闇から抜け出せるわけではない。

けれど、君がいないという虚無感、それはどうしようもない事実で。

こんなにも苦しいなら忘れてしまえばいい、彼女と出会ったこと、過ごした日々全て。
その笑顔も。



忘れられると思っていた。なのに。













どうしてこんなに僕は狂っていくんだ。こんな自分、知りたくなかった。









そして、やっと、気付いた。

こんな僕が、君を、愛していたことに。







この感情は愛情だった。君が消えるのを恐れたのも、それでも手にかけられないのも、

君とみた全てが美しかったのも、全部。

気付いたのだ。

いや、気付かないふりをしていたのかもしれない。

とんでもなく不似合いな感情を。必要ないはずのものに。



自分もまた、 醜いことに。



僕は違う、そう思っていたかった。

そんな子供じみた、実際子供でしかない考えも、独占欲も、みんな、みんな、

君のせいで知ってしまったんだ、なんて。





世界には美しい半面があることを知らなかった訳じゃない。

知らないふりをしていたかったんだ。










君がいないだけでこんなに脆くなるのが、愛、なのですか?











空は、どこまでも綺麗に晴れている。僕の心を嘲笑うように。

この広さを、人はどうやって測るのだろう。

もしも、この想いを伝えるなら、それを表せる言葉はあるのだろうか。



答えは、NO。

この空を測るものなんてないように、この想いを表す言葉など持ち合わせていない。



たとえ、伝えられたとしても。僕は君の隣にいるべき人ではないのだ。

そんな、わかりきった答えにうんざりした。

君の笑顔は鮮明に思い出せるのに。こんなに深くまで僕の心を占めているのに。

君が僕の隣に居る未来は描けそうにもなかった。





そうして、僕は君と過ごした部屋へと帰る。

ほんの少しの期待と、それを隠す影を引きずりながら。




それでも、思うのだ。 このまま帰ってこないほうが良いのだと。

そうでなければ僕は― 

君を失う不安と恐怖、僕のエゴで絡まりあったそれで君をしばりつけてしまうから。